TRIO WX−110の整備


 昭和39年頃の製品だそうですが、かなり痛んでいるWX−110が転がり込んできました。
 トランスにはしっかり赤さびがあり、シャーシにも部分的に相当のダメージがあります。まぁ50年近くも前のものだから仕方あるまいとは思うものの整備するとなると気が引けるような感じです。
 手を入れたところで、この時代の機器は性能的に期待するほどのものではありませんし、どうしたものかと考えていました。
 眺めてみると真空管は14本も使われていて大変賑やかです。シャシ裏を見れば昔のカラーTVみたいにごちゃごちゃして目が回るような配線です。

 使われている球などはこんなのです。
 F M:6AQ8-6AQ8-6BA6-※6BA6-※6BA6-1N60(4)-6BL8-6AU6
 A M:6BE6-※6BA6-※6BA6-1N60 
 AMP:12AX7(2)-6BA6(2)-6BQ5(2)
 ※印はFM,AM共用、RECTはFR-1(2)による倍電圧整流
 アンプ部は6BQ5のシングルで5Wを絞り出しているとか?6BA6のdrvで、前段にCR型のTONE CONTROLが付いています。TONE-Cの減衰を考えれば、もう1段増幅を設けたいような感じです。
 PAは固定バイアスで、この電圧を利用してEQのヒーターを点灯させています。以前イタズラした「W−41」というプリメインアンプは、PAのカソードからEQのヒーター電圧を得ていましたが、これはグリッドバイアスからでした。バイアスやヒーターはそれぞれ専用の巻線が理想ではありますが、専用巻線を設けず電圧を取り出すのが当時の流行だったのでしょうか。


◇入手時のWX−110◇

サビと汚れで恐ろしいような状態です。ツマミカバーも1個ありません。


 この頃、TRIOのレシーバーは「トライアンプ」と位置付けられていました。どうしてかは全く分かりませんが、チューナー、プリアンプ、メインアンプが一体になったということなんでしょう。まさか「Try」ってことかぁ〜?
 性能はスペックを見るまでもなく、ノイズと軽い「ハム」は当時の常識?だと想像できます。これは配置と配線手法によるものでしょうか、また、コストダウンの為パーツの関係もあると思います。
 しかしながらステレオ等はスピーカのすぐ傍で聴くものではありませんし、当時の音楽ソースなどを考えると、リスニングポジションで聴く分にはさほど問題がありませんでした。
 また、アンサンブルステレオのなごりもまだまだあり、コントロール部を筐体に入れたという感じすらあります。当時、このような機器を購入するのはマニアではなかったのかと想像します。
 そしてこの数年後には、トランジスターアンプが一般になり、そして4CHステレオが流行しました。その頃からでしょうか、4CHレコードの開発もあり、機器やソースの性能が良くなってきたようにも感じます。
 そんなことを考えれば、性能云々よりも当時の雰囲気を楽しむというのもまた一興かなと思います。ということで出来るだけ磨いてみました。


◇とりあえず拭き掃除◇

拭いた程度ではなんとも・・ツマミもパテ込み 要は下ごしらえみたいなものです。


 このWX-110は年数を経ている為かなりの痛みがあります。パネルのキズにツマミキャップの欠品そして何より埃とサビで恐ろしいような状態でした。
 見るからにして酷いレシーバーって感じで、どうしたものかと悩むのも当たり前かもしれません。
 たとえ壊してパーツ取りとしても球とトランス類、IFTと良くってバリコン程度でしょうか、その程度の部品くらいです。でもせっかくのレトロなTRIOさんです。簡単に手入れしてやっぱり音の出る飾り物かな?と進めることにしました。
 問題はいろいろで、ツマミをどうするか。大電流用のスライドSWは折れているし、ブロックケミコンはパンクしています。それとすごいサビ・・・
 マスクを眺めていたらこのツマミは何処かで見かけたような記憶があります。もしかしたらと思いガラクタ箱をごそごそすると若干色の違う同じ形状のツマミが出てきました。これはラッキー!という以外ありません。そしてスライドSWは電圧切替のと交換すれば十分対応が出来そうなことが分かりました。


◇わりと賑やかなシャーシ上◇

賑やかプラスホコリとサビのおまけ付きです。


 この時代のアンプ類は単線が主流だったようです。このレシーバーも単線で配線されていて時代を感じます。
 まず手始めにトランスのお化粧で、サビ取りと再塗装を済ませました。見たところ電源トランスはかなり馬力がありそうです。そして出力トランスは2次側がダブル巻線となっていました。バンド型にカバーを被せただけのものですが、カバーありとなしでは気分的に違います。
 そういえばナショナルの出力トランスも同じような格好のトランスがあり、見るからに良い音がしそうで、子供の頃は格好いいと思ったものです。これよりもっと高級なものはケース入りとなります。ケース入りなんて高価でとても手も出ませんでした。


◇シャシ裏◇

パンクしたケミコンに目が留まります。


 裏側を眺めてみれば、職人さんの配線といえるか分かりませんが、絡げてからのたっぷり半田です。所々コンデンサーやリード線の皮膜が溶けています。狭いところに流し込むので無理もありません。きっとコテも大きかったのでしょう。
 それはそれとして、ただ配線すれば良いみたいな当時の手法こういう時代もあったのだな〜と思います。真空管式のカラーTVとかはだいたいこんな感じでした。
 ただ、TVと違うところは煤が少ないということです。ブラウン管やフライバックトランスなどの高圧部分は、電気集塵機みたいなものですから目に見えないような空気中のチリを集めてしまいます。
 思えば子供の頃、煤だらけの真っ黒なシャーシをぶら下げて持ち帰ったものでした。眺めているとIFT周りが何となく懐かしいやら何やらです。飽きもせず分解していたあの頃・・・・


◇ちょっと塗装しました。◇

シャシはちょっと酷いので再塗装です。トランスも・・・


 オリジナルは多分、クロメートメッキの有色タイプでしょうか。これは今環境問題とかで、もう出来ないそうです。出来たとしても○金が無いので出来ませんが・・・
 となれば雰囲気だけでもということで、いつものごとくシャンパンゴールド風に塗りました。大きく色むらがあれば更に雰囲気が出ます。でも殆ど均一になってしまいました。どうやってやったかというと・・う〜んとナイショってことで・・簡単なんですけどね。
 錆びていたって性能に変化はありませんが、薄汚れたシャーシとまぁまぁ綺麗なシャーシではやる気が違ってきます。これも気分的なことですがー。こうやって眺めてみると、さ〜てやるかなぁ〜って気がなかなか湧いてきません。体調不良でー。
 勿論、ケースに底板それにパネルは研磨後に再塗装です。パネルは文字が消えるのでレタリングで処理しました。


◇とりあえずオリジナルに◇

パーツ交換!どこから煙が出るかな?


 入手時はとても通電出来る状態ではなかったので、とりあえずですがオリジナルどおりに配線を戻します。
 こうすることによりどんな状態なのか把握できるので仮組みたいな感じでしょうか。このときに配置等気に入らない部分を若干修正していきます。
 予め分かっているのはB電圧が高いのかな?ということ。これは平滑コンデンサーのパンクから想像できます。電圧降下はスペースがないのでCHインプットは無理のようです。発熱しても仕方ありませんが何処かにドロッパーを入れなければとシャシを眺めて・・・いると眠くなるのです。zzzz・・


◇配 線 完 了◇

出来た出来た!今度は大丈夫かな?


 とりあえず状態を見る為、ひとまずオリジナルの配線に戻してみました。
 改めて配線確認後、いよいよ灯入れです。テスターを数台使い、+B,PAのPとSGそれにヒーター電圧を読み取ります。
 電圧を見ているとB電圧が360V付近まで上昇し、球が暖まってくるにつれ段々降下して最終的に220V弱になりました。これはちょっと下がり過ぎ、おまけに平滑用抵抗もめちゃくちゃ熱くなっています。これは何処かリークしているような気配が・・・はて?
 まず疑うのはコンデンサですが、どうこうしているうちにバイアス用に設けられたケミコンがブチュブチュ〜、プッシュー!そしてモクモク!シャシ内に電解液が飛び散り散々な目に遭いました。
 見事にパンクしていたブロックと連結していたケミコンですが、どうもパンク寸前で持ちこたえていたようです。これを交換してみましたが、電圧降下と抵抗の過熱は一向に治まらず・・・う〜んと?
 案の定、PAとdrvのカップリングが1個ずつリークしていました。バランスが悪いので全部交換です。
 そして平滑用フィルター抵抗の過熱ですが、これの原因は最終段にどういう訳か抵抗でグランドされいました。なんの為の抵抗かといろいろ調べても分かりません。
 これを外すと抵抗の過熱も少なくなります。ラジオもちゃんと受信します。なんの為の抵抗でしょうか。ちっとも分かりません。
 当初は熱くて触れませんでしたが、試しに電圧が落ち着いたところで、接続されているリード線を外してみました。変化があるのかと調べてみても電圧変動はなく、フィルター抵抗は普通に触れる程度の発熱となりました。どうやら電源投入時のピーク電圧を抑える為の抵抗だったような気がします。また、ドロッパー抵抗はどうしても焼けるのでセメントに交換しました。
 問題のピーク電圧は、S-Diの後に数Ωの抵抗を入れ、ケミコンの耐圧を350Vから450Vに交換してあるのでもうパンクの心配はありません。球にしてみればあまり良くありませんが、ヒーターが暖まるまでは電流が流れないので、なんとか持ちこたえてくれるようです。
 今更ながらに考えてみるとブロックケミコンの高耐圧品がコストに合わず使えなかった。高耐圧は大きくて収まらなかった。と考えれば何となく分かるような気がします。


◇完    了◇

やはり真空管のサウンドで優しい音色を放ってくれます。


 機能面では、冒頭でも申しましたがDrvが6BA6だけでプリアンプ部は省略されたような構成です。その為、AUX端子は感度が悪くCDプレーヤーを直接繋いでもGAIN不足でちょっと物足りなさを感じるところです。それでも当時はレコードやラジオで十分楽しめたのでしょう。入力端子も少ないです。
 意外だったのは軽いハムとノイズです。スピーカーに耳を当てない限り感じません。また、感度はやや劣りますが、FMステレオもマルチプレックスの球を交換したところセパレーションもまぁまあでクリヤーに受信できるようになりました。音色はちょっと細身ですが、やはり球!優しい聞きやすい音色です。
 よくよく考えてみれば、このWX-110は、私がまだちっこいちっこい頃でラジオやステレオなんてものも知らない頃の製品でした。おまけ付きのグリコキャラメルが好きだった時代かな?いやいや、もっと前かもしれない・・・・?そんなに古いものでした。
 結論としてみれば、手入れをして大正解ということでした。お気に入りになっちゃったりして・・・


◇小さなシグナルメーター◇

昔の流行は小型のメーターでした。


 昔のチューナーはシグナルメーターがちょこんと付いていました。トランジスターの時代になってもしばらくはこのように小型の時代が続きましたが、当時はマニア向けで格好良かったと思います。
 その後メーターは徐々に大きくなり、FMの上位機にはセンターメーターが取り付けられました。そしてPLLシンセサイザーの時代に入りメーターは消えてしましました。


◇マルチプレックスの一部◇

だと思うのですが?


 見慣れぬコイル群です。FMステレオも球交換でとても澄んだ音色で出てくれました。
 初期タイプなのか分かりませんが、FM-STEREO AUTOポジジョンはありません。ステレオかモノかモニターしてステレオに切り換えるタイプのようです。
 ppには敵わないようですが、真空管でレトロ気分を満喫出来たWX-110でした。


◇記 念 撮 影◇

レトロなステレオレシーバーです。ちっと満足でした。


<2009.11.21>


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