憧れていたビクターのアンプ
懐かしき少年時代のこと、そんな昔に憧れていたビクターの4チャンネルアンプが転がり込んでいました。
性能とか音色とかではなく、グリーンに浮かび上がる4連メーターがとても格好良く見えたのです。 考えてみれば当時買えたとしても中古しか無かったはず、なぜならば数年遅れの雑誌に載っていた広告を見ていたのですから・・・ それから数年後バイトで手にしたのは型遅れの在庫処分みたいな展示品でメーター無しのハーフサイズ、ミニ4チャンネルアンプとチューナーでした。 しかし、手にした頃は4チャンネルステレオは市場から消えつつある頃だったと思います。 お店には普通のステレオアンプが沢山展示され、4チャンネルアンプは片隅にちょこんと中古みたいなのが置いてあったように思います。 |
◇グリーンに浮かび上がる4連メーター◇
電源を入れると緑に浮かび上がるイルミネーション、これに憧れていた・・・
やっぱりグリーンに浮かび上がるメーターはとても魅力的です。豆電球の柔らかな光が目にも優しいです。
このアンプの状態はというと電源を入れてもウンともスンともいいません。ミューティングリレーも働きません。思いのほか重傷みたいな・・・ パネルもケースもちょっとべたつきがあり内部は湿ったような綿ぼこりで覆われていました。これは一番いやな汚れで除去するのに苦労します。 湿気の綿ぼこり、これは水分というより揮発して舞い降りてきた油分だと思います。機械油なら刺激臭がありますが、このかほりは・・・食品や食用油が綿ぼこりに付着しているようです。 きっと何処かの居酒屋か喫茶店に設置されていたという雰囲気でしょうか。 一般家庭ならキッチンに設置されていたアンプとなりますが、これはちょっと考えられないです。 しかし、換気扇を回さずに油料理をする方の家、アパートの1室だったとすれば可能性はあり得るでしょうか。 さらに内部を調べるていくとTrの殆どにhFEの低下が見受けられました。つまり長い時間使われてきた、通電されていたということになります。 ということは汚れ具合とhFE低下から想像するとやっぱり店舗!という結論に至りました。(たぶんです。) |
◇整備前の内部◇
掃除して点検中の内部です。
これにはアンプが4台も詰め込まれ、位相反転マトリックス4チャンネルの回路、メーター回路等あり、その引き回しの配線がものすごい量です。
もちろん回路図はありません。そういえば確かこの頃のアンプって説明書と配線図が付属していたと思いますが・・・・ その昔、後輩がメーターの無い同シリーズだったかな?それを中古で仕入れてきた時に1チャンネル音が出ないというので、付属していた回路図と現物を比べた記憶があります。 そんな頃は比べるくらいの力量しか無く、部品もないし修理なんて出来るわけもありませんでしたが、回路図はマイナー後か前かで本体と内容が違っていたのが確認出来ました。 コストダウンの為もあると思いますが、いつの間にかこういった回路図は添付されなくなってしまいました。好きな者にはさみしい限りです。 オリジナルの回路図はいたずら好きには大変助かりますが、今の時代だと内容が違うとかいってクレームの元となるのかもしれませんね。おかしな時代になったものです。 |
◇オレンジのTrに交換◇
メインアンプ部、TrとカプリングコンデンサーがNGでした。
壊れたTrだけを交換すれば済むことですが古いし、同じTrの持ち合わせは無く、代替え品を使うことになります。
4系統もあるので、基板上の見た目のバランスを考えれば全系統の交換になります。 使われていたのはC458という日立の旧タイプ、それではともっと古いタイプの貴重なオレンジ色の458を使ってみよう・・・ 次段のA654とC1213も2系統パンクしてます。ありゃりゃ、ドライバー段全数交換となってしまいました。 A673とC1213は既に廃品種?C458も品薄で1種しかありません。C458にはhFEのランクがあったようで、オリジナルは「Yランク」相当品でした。 使ったオレンジの458は「Oランク」相当品で上手くありません。ベース抵抗を変えれば良いのですが、どうせならそのまま差し替えの方が楽ちんというもの・・・ ここは奮発して?手持ちのC1815「Yランク」に改めて交換です。共に汎用TRで互換性があります。 次段も手持ちが無いので汎用TR、品薄のC372とA495のコンプリに交換してみました。 勿論、オレンジの458でもリレーが解除になりましたが、それなりに適合したTrが寿命の点で望ましいことはいうまでもありません。 メインの配置は左からフロント左、リヤ左、フロント右、リヤ右となっています。これはBTLアンプ接続が可能となっているからで、初段に付いているTRはBTL時に位相を切り換える為の反転アンプです。4チャンネルの場合は使われません。 |
◇調整中と交換したTr◇
バランスを考慮して交換したら結構な数になりました。
メイン部で交換したTrは相当量になりましたが、これでひとまずモニターは可能となった訳です。
ところが、1時間も聞いているとサァーというノイズが気になりました。冷めた状態で電源を入れた時はさほど感じません。じわじわと増えるようです。 メインは交換したので、プリということになります。プリとメインを切り離すと静かですし・・・ このノイズは、4チャンネルのうち3チャンネルから発生しています。プリ部で12石も使われているし、おまけにスルーホールの両面プリント基板が使われています。 手持ちが無いのでメインから外したTrから元気なものを選別して、プリに使うことにしました。これは日立のC458です。 苦労して交換を終え、再度モニターすること1時間余・・・今度はリヤ側のノイズが増えてきました。 元々リヤー側はマトリクスを経ているので、ノイズはどうしても多めになりますがちょっと酷いかな?? となると怪しいのはマトリクス回路ということになります。ここもTrの交換で随分静かにななりました。 |
◇イコライザーとプリアンプ、マトリクス回路の基盤◇
プリ部です。両面プリント基板でTr交換が厄介でした。
左がEQアンプで右がマトリクス回路、上はメインアンプ基板の裏
カプリング交換後、綺麗な水色をしています。音も綺麗かな?
さて、終わった!TRもコンデンサーの交換も終わり、またまたモニター再開です。
ウン!今度はノイズも無くばっちし、ちゃんと音が出てきます。数日間聞き込みましたが、これといってトラブルも無く昭和の音色を奏でてくれるようになりました。 当時はこんな高級品なんて手も足も出ない少年時代!今使ってみればオモチャ的なアンプにすぎないような気もしますが、それでも当時は憧れでした。 性能や音色より外観、操作性より外観!そんな考えしかありませんでしたし・・・ ※コンデンサーの色は綺麗でも音とは関係ありませんので・・・ |
◇リヤパネル◇
リヤ端子も汚れで接触不良でした。この頃は材質が良く磨けばぴかぴかになります。
あ と が き
この4チャンネルアンプは簡易的なマトリクスといわれる方式ですが、この数年後、ステレオラジカセが流行ってきてからはアンビエンスそしてサラウンドと変わっていったと思います。
聞いてみると音が動く・・・そんな感じの表現でいいのかな?それではオーディオとしてはどうだろうか?と考えてみると−。 たとえばトランペット、ドラム、ピアノのジャズトリオが演奏しているとすれば、トランペットが右に行ったり後ろに行ったり・・・ピアノも動くぞ!クラッシック音楽なら最悪かもしれません? ステージでは絶対考えられない音の動きの再現が可能というアンプに仕上がっているように思います。 アンビエンスやサラウンドの異様な広がりはこの音の動きにあるような?結論からいえば個人的にサラウンドはオーディオ向きじゃないと感じました。 じゃぁ巷ではサラウンドが流行っているのかとなると、映像を見ながら使うものだからでしょう。 列車や飛行機は前から後ろに行ったり、後ろから足音が迫ってきたりと映画の雰囲気を出す為のものだからこれはこれで良いのでしょう。 どうやら4チャンネルアンプというのはオーディオ向きではなかったような気がします。格好は好きだけど・・・ |
◇パネルを取り付けて◇
綺麗にしたパネルとツマミを取り付けて・・・
4チャンネルといってもこれにはノーマルポジションがあり、BTL接続にすることによって普通のステレオアンプとして使うことが出来る仕様となっています。
しかし、そこまでして使うなら普通のアンプが良いかもしれません。 今回はあの頃の懐かしさもあり、いたずらに手を入れてみましたが、出てくるサウンドはなかなか立派なものでもあります。 お遊びのオモチャアンプとしては贅沢品かもしれません。 |
◇旧機との比較◇
メターは同じ4連ですが、マスクがちょっぴり違います。
好みでいえばマイナー前のメーターが良い感じに見えます。なんとなく・・・
作りというか仕上げを見ると旧機の方はパネルのクリアー塗装が厚いように見えます。決して黄ばみではありません。 これは時代と共にコストダウンの結果だと感じます。ということは古いものほど丹念に造られていたということでしょうか。 出てくるサウンドは大きな違いは感じられません。どちらも昭和の70年代の懐かしいサウンドという表現になりますが、今のようにツンケンしたようなところはありません。 長い時間聴いていても疲れない音です。刺激が少ないからかな?性能や特性といったデジタル時代のサウンドは決して悪いとは言えませんが、刺激的だと感じるのは私だけだろうか・・・? |
◇その昔、少年時代に購入したアンプとチューナー◇
定かではありませんが、こんなミニアンプでした。
上記のセットと比較するとまるで月とスッポンみたいですが、内部は立派なことに4系統のアンプが搭載されています。
入力端子はミニサイズのため最低限しかありません。勿論EQアンプもなくセラミックかクリスタル・カートリッジのピックアップしか使えません。 その為に当時はMMカートリッジのプレーヤーは乾電池駆動の小さなEQを通して使っていました。 そして、このシステムを改めて使ってみると意外とハムが多い事に気が付きました。 勿論ハム対策を行いましたが、当時ってこの程度のハムは全く気にせずに使っていたのだと思います。 現行のポータブルCDシステムコンポでも電源トランスの位置関係でハム音は発生しているものが多々ありますが、1m程度離れて聴く分には何も支障がないのも事実です。 それに、こういうのってヘッドフォンじゃありませんので耳元で聴くものじゃないですね・・・ こういったものを手がけていると、あの頃の遠い遠い昔のことがとても懐かしく思い出されます。 |
<2014. 4.11>