◇ナショナル6S−10(その2)◇

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−状 態 編−


 ある日のことです。HPを見て「私も不動の6S−10を所持していますが何分古いものです。このラジオも修理・改造・お化粧をお願い致します。可能ならば長く使えるように修理して欲しい」との旨のメールを頂きました。

 確か6S−10って戦前のスーパーだったような?状態は分かりませんが、でもラジオだし何とかなるだろうと気軽に請けたのが大間違いの始まりだったかもしれません・・・
 届けられたのは3月10日とまだ雪が降るような寒い頃でした。どれどれと裏板を外して眺めてみればあらま!です。オリジナルのままで改造されていない2.5V管のラジオでした。
 戦前のラジオは改造されているものが多く、オリジナルのままというのは珍しいです。しかし、シャシをひっくり返してみれば修理を試みたのか手を入れた形跡がありました。 


◇届けられた6S−10◇

戦前の超高級スーパーです。高級というだけあってめちゃくちゃ重たいです。

裏蓋を外して後部から

◇内  部◇

シャシー上部から・・・ぎっしり詰め込んだラジオ

シャシ裏の様子、修理をしたのか手を入れた形跡


 戦前のため受信周波数は530KHz〜1500KHzと設定されています。コイルもオリジナルですから1600KHzまでの受信は不可です。
 試験で通電してみたら妙にヒーターが明るく感じました。それもそのはずヒューズが90Vのところに挿してあり、電圧が高くなっていたからでした。
 ヒューズを所定の位置に戻しでも受信はしませんが、低周波部は生きているようで2A6のグリッドに触れるとブゥ〜ンとハム音が出ます。
 見てみると、ラジオ部はコンデンサーが外れていたり、配線がしてなかったりで受信しなくて当たり前の状態でした。
 また、ボリュームの1個は戦後の品に交換されていたのでしばらくは使われていたと想像できます。
 さてさて、肝心の入れ物はというと・・・あ〜〜!これは駄目だ〜ムシにやられてる〜ボロボロになってる〜〜でした。


◇よく見るとピンホールが◇

これは1部分ですが、穴がてんてんと沢山開いています。


 一見、綺麗な箱に見えましたが、よく見ると小さな穴が沢山開いています。これを見たときに、もう駄目と判りました。なぜならムシの住み家になっているからです。
1個程度なら殺虫剤でなんとかですが、ここまでくるともう手の施しようがありません。
 もしこの箱を修理に持ち込んだとしても「残念ですが、不可能です。」と即答されることでしょう。
 実際、私も虫食いのキャビネットはお断りしています。なぜならば見えないところまでキクイムシにやられているからです。
 この虫はとても厄介で殺虫剤を吹き付けた程度では駆除できません。完全駆除は材木に薬を浸透させなけれらず、ほかっておくとキャビネットがスポンジ状になりグチャっと潰れてしまうでしょう。
 しかし、浸透といっても合板ですから、接着剤が邪魔をして中まで浸透してくれないのも事実です。
 というわけで・・・諦めムードになりました。

◇既に虫さんの集合団地◇

無事そうだったのは杉の側面とアピトンの底板だけ他はムシさん団地!


 赤く囲った部分はムシさんの住み家です。下の写真で赤丸はムシさん・・・内部からアイロンを当てたのですが、まだしっかり生きていました。
 箱はお断りをして、中身だけとも考えたのですが、朽ちていくのは目に見えているし、あまりにも可哀想・・・・・・
 試しに内側からちょっと削ってみたら・・・出てくる出てくるうじうじと・・・
 表には出ていなくても穴から辿るととんでもない方向に食い荒らされています。
 こんな状態でしたから、どうしようかと悩んでしまいました。


◇ダイアル板◇ 

当時植民地だったという放送局のコールサインが記されているそうです。


 ダイアルには当時、日本が植民地としていたところのコールサインが記入されているという珍しいラジオだと情報も頂きました。その一部は下記のとおりです。

 ○MTBY 890KHz 奉天(現在の瀋陽)  1KW
 ○MTCY 560KHz 新京        10KW
 ○MTFY 674KHz ハルピン       3KW
 ○JBBK 820KHz ピョンヤン    0.5KW
 ○JFAK 750KHz 台北        10KW
 ○JFBK 720KHz 台南         1KW
 ○JFCK 580KHz 台中         1KW
 ○JODK 710KHz 京城(現在のソウル) 10KW

 上記の放送局で唯一JOが付いているのはJODKのソウルです。また、このDKと付くコールサインは我が国ではずっと欠番になっているとの情報でした。 ただし、これは昭和12年の記録であり、このラジオのダイアルにはもっと沢山記入されています。
 となるとある意味超珍品のラジオかもしれません?それに当時庶民では手の届かないラジオであったことは間違いないでしょう。
 はっきり言って勿体ない!勿体ない!勿体ない!ぜ〜ったい勿体ない!オリジナル球だし・・・

 普通は手を出さないキャビネットですが、こういったラジオですから、今回のみ特別に救護を試みてみようと考えました。 ※なんともならないかもしれないけど・・・駄目だったらごめんなさいです。


−キャビネット編−


 さてさて、ここいらで○○製作所?の出番となるのかな?・・・早速調べてみると想像以上に食い荒らされていました。
 化粧板はチーク材でポツポツと穴があちらこちらに開いています。これはムシさんがいるという証拠です。裏板にもピンホールがあり、削っていくと3匹も潜んでいました。
 キャビネットをひっくり返してポンポン叩くと中からぽろぽろムシさんが落ちてきます。これは相当数潜んでいると考えた方が良い訳で−・・・・
 出てきたムシさんはウジウジもによもにょと動きめいています。あまり気持ちの良いものじゃありません。
 でも普段目にするものでのない珍しい虫かもしれません。ゲロゲロ〜〜!


◇中身を取り出し◇ 

叩くと虫が落ちてきます。

食い荒らされた部分。いずれは全体がこうなる・・・


 あまり気の進むような箱ではありませんが、やると決めた以上はやるっきゃない!や〜るときめたぁら、どこまでぇ〜やるさ〜♪みたいな・・・
 しかし、想像以上の酷さにはちょっと参った・・・駄目かも、などと思いながら、ここまでやったら後戻りも出来ないし。
 他にはパカパカ浮いた部分があり、接着剤を流し込んでクランプで固定して乾燥させます。


◇ただ今乾燥中◇

浮いた部分はこのように処理します。


 朽ちた部分を削り取り、新たに補強を考えます。また、ピンホールが見えない部分もスポット的に削ったりして虫がいないか確認しました。
 しかし、まだ何処かに卵を産み付けてあるとどうしようもありません。適時に薬剤散布といったところですが、深く産み付けてあるため???がいっぱいです。
 あれこれ探っていったら、フロント部分と天板部分は殆ど削り取る羽目になってしまいました。
 これは予想を上回る酷い状態で、もうまいった、まいったという感じ・・虫食いは、ほかっておくとこのようにとんでもないことになります。
 余程の自信があれば別ですが、こういったものはオークション等でも手を出さない方が安全です。ただし内部の部品取り用としてなら関係ないでしょう。


◇補  強◇

やられた部分を削り取り、補強します。浅い部分はパテ処理です。


 朽ちた部分は、ほぼ水平に大きく削り取ります。
 こうすることですぐ隣にムシさんが潜んでいないかも確認出来るし、おおよそ平らにすることが容易になります。
 こうして削っていくと新たな空洞が次々と・・・・いたいた!それをちょんと触るとササッと結構早く移動するムシさんだということが分かりました。
 外観はカブトムシの幼虫を凄く小さくしたような感じの幼虫です。カブトムシの幼虫はモソモソとゆっくり動きますが・・・・
 続いて削った部分に補強材を取り付け乾燥させます。
 乾燥したら、今度はその部分を目立たなく処理します。たとえ表からは見えないとしても補強したままではあまりにも格好悪くていけません。


◇内側の最終処理◇

逆さまですが、これが本当の穴隠し?削ったところが見えなくなりました。


 上記の写真は天板をトランスでプレスしているところです。
 残すは表側ですが、これはピンホールを見えないように加工して再塗装しておしまいとなります。
 ケースが終わればシャシーを入れてボリューム等の位置合わせをします。


◇ケースのお化粧◇

穴がいっぱい開いているとみっともないので再化粧です。


 これは非常に面倒な作業になりますが、これをやらないと意味がありません。
 位置合わせやらカットなど細かい作業が続きます。これが終われば色付けと塗装、組み立てて完成するわけであります。
 どうやってやったかというと、こうやってやりました。としか言いようがありません。それにあまりやりたい作業ではありません。


◇ケース完了◇

凄〜〜く省略して、あっという間に完了


 キャビネットは最大限分解して全塗装して再仕上げとなりました。
 似たような色合いになったので一安心・・・こんなもので完了とします。



疲れてきたので、続きは続編へ・・・

<2014.07.30>


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