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◆TRIOの4BAND通信型受信機の簡単整備3◆
(終  章)


9R−42J(アマチュア無線用)


 昭和30年初期の頃、外国製や業務機のような雲の上の存在ではなく、背伸びしてなんとか手が届きそうな、組立式の高1中2受信機がありました。


◇当時の面影を再現できればと・・・◇

レトロな受信機でくつろぐ時間・・・


 それは、当時ハムにとって憧れの高級受信機だったのかもしれません。その頃といえば、短波付きの5球スーパーをそのまま使ったり、自作やラジオの改造品が主流だったとも聞きます。そんな中、感度、安定度とも比べものにならないような高性能受信機があったとすれば、なんとかして手に入れたいと思います。
 アマチュア無線を趣味とすること、それは電子工学を趣味とし工作が得意だった。それが当たり前だった時代のことです。そんな時代の受信機を手にしてニコニコ・・・。これにはアナログの暖かさがあり、長閑な時間さえ感じます。
 ラジオから流れるアナウンスそして音楽、真空管のやさしい音色が部屋全体を包み込みます。熱気と共に・・・・。


◇手にしたときの内部◇


大きな出力トランスが取り付けられていました。


 高1中2は、高周波1段増幅中間周波2段増幅といいます。一般の5球スーパーは、高周波増幅が付いていません。そして中間周波は1段のみが普通です。
 また、9R-42Jは、SSBやCWが受信できるようにBFO、更にANL回路が組み込まれています。BFOはビート発振器、ANLはオートマチック・ノイズ・リミッターといいます。これらは普通のラジオ放送を楽しむだけなら無くても十分です。
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【能書】ともいう
 SSB…Single Side Band AM波から搬送波を除き、側波帯の
     一方を取り除いて単側波帯を使う電波型式です。
     上側を使えばUSB、下側ならLSB。
 BFO…Beat Frequency Oscillator SSBは搬送波が除かれて
     いるため、搬送波に相当するものを作る装置
 ANL…Automatic Noise Limiter 自動的に電圧の上昇を抑え
     大きなノイズをカットする装置、仕組み。自動雑音制限
 搬送波…Carrier 変調が行われていない基準信号
 変 調…音声などの信号を・・・
 いつまでも続きそうだしあまり好きでもないので、このへんで・・・


◇参考にした回路図◇


5球スーパーと比べると凄く複雑です。


 回路図を眺めてみましょう。5球スーパーそして高周波1段増幅の6球スーパーを理解し、組み立てられるようになれば、これくらいはお茶の子さいさい?
 5球スーパーと大きな違いは、周波数変換部の発振部が独立して安定度を高める設計になっています。
 特徴は、コイルパックを採用したことで配線の簡易化を図ってあることでしょうか。この部分は、配線済なのでさほどでもありませんが、全体的にやっぱり複雑みたいです。こんなの配線する人の気が知れません。あっ!私か・・・・


◇電源トランスの穴を整える。◇

オリジナルのビス穴が見えます。

 中古、それも組立キットとなるとなにかしら手を加えてあると睨んだ方が良いです。それが修復可能か不可能かは別として、意味不明の場合もあります。手にした42Jも例外ではなくとんでもないものでした。
 バリコンには面食らいましたが、電源トランスもそうです。定格より高い300V、トランスの穴は大きく広げてあり、でこぼこだったので綺麗に整えることにしました。見えないところとはいえ気になります。出力トランスを取り付けてあったビス穴もパテ処理です。


◇試験中にパンク◇

1日目は辛うじて持ちこたえてくれた。

 A-BANDだけ仮調整してラジオ放送を楽しんでいた2日目のこと、ポツン、ポツンとスピーカーから雑音が聞こえます。なんだろう?雷の音にしては変だと思っていたら、今度はぶじゅぶじゅと本体から聞こえてきます。
 なんの音だろうとひっくり返してみたらケミコンの安全弁からオイルらしきものが吹き出ていました。使えると睨んだケミコンですが、パンクしてしまいました。穴が空くともう使えません完璧に。でも、これは、同容量のケミコンをガラクタ箱から探し出して対処出来ました。300V×2のトランスに、300WVのコンデンサーでは無理ですね。今度は、200Vのトランスのに350WVで余裕ができました。右側がパンクです。


◇裏  側◇

ケースに入れたままでも調整が可能です。


 調整は、面倒ですがさほど難しくありません。基本的には5スパと同じです。組立後、各部分の電圧を測定し、正常に働いていることを確認できたら、IFTの調整、各バンドの周波数調整とANTコイル、RFコイルを最大感度になるように調整して終わりです。では、さようなら・・・

 ではなくて、調整にはオッシレーターが必要です。それと短波帯は、イメージを受信していないか確認するためにも周波数が正確に読み取れるBCLラジオがあると便利です。イメージに周波数を合わせ調整してしまうと、本来、上下に聞こえるはずの放送局が聞こえません。受信してイメージで現れるのは、かなり強力な電波を発する放送局です。弱い局は聞こえにくくなるのが普通です。その確認にはBCLラジオは役に立ちます。調整したら、BCLラジオと聞き比べするとすぐ判ります。ナショナルのRF-2800とか2600あたりのデジタル表示付きが良いと思います。私はSONYのを使いました。


◇付属していた調整要領抜粋◇

組立後は無調整でも十分使うことが出来るとも書いてありました。


 完成品を購入すればそのまま使えます。しかし、手間を惜しまなければ安価なキットを選んでしまうでしょう。特殊な球を使ってあるわけでもなし、5球スーパーから代用したり、友人から頂いて来るという方法もあったそうです。
 組み立てたままでも使用可能ということは、オッシレーターを持たない人にとっては大変嬉しい配慮です。それでも個々に多少のばらつきが出ますので、調整要領が付属されていたということなのだと思います。当然ながら調整は、IFTやトリマをほんの少し回す程度だったと思います。


◇セット上面◇

レトロな受信機はやさしい音がします。


 天蓋は夏場対策、裏板はメンテ用でしょうか。シャシを取り出さずに調整できるところが嬉しい造りです。自動車でいえばボンネットとでも?でもオイル交換の必要はありません。
 スピーカーは内蔵せず、外付けとしました。箱は自分で作って出力トランスを内蔵してあります。


◇世界の電波を捕らえる。◇


当時の風情が戻ってきました。


 デジタル通信が主流になりCWもアマチュア無線のごく一部くらいとなりなりました。業務通信もアナログから移行しています。
 このように、ラジオマニア、ファンにとってさみしい時代になりましたが、昭和のラジオで、電波を捕らえて聞くのも楽しいものです。昔に比べ大変静かになった短波帯ですが、ダイアルを回せばまだまだ聞こえます。深夜便を聞き飽きたら、フェージング混じりの異国の情緒を楽しむのも良いのではないでしょうか。私がラジオに興味を抱くずっと以前の受信機ですが、何処に懐かしさを感じるのです・・・・。


 このトリオ9R−42Jの整備にあたりOMさんをはじめ皆様方に情報をいただき順調に作業を進めることができました。感謝申し上げます。

<完>

<2007.09.22>


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