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−海から山へ来たJRC−


 出来ることなら、30MHzくらいまで受信出来る真空管式のものを手元に置いておきたいと思っていました。それも、SSBやCWを受信できるもの・・・。欲は申しませんが、格好よくて使い易くて、レトロな雰囲気のするラジオでオブジェとしても感じのいいもの!こんなの無いかなぁ〜と思っていました。あとから聞きましたが、こういうのを欲張りというのだそうです。
 探してみると今でも売られているようです。しかし、手にするとしても大きな問題がありました。それは「先立つもの」がないということでありました。 
 OMさんたちは既にお持ちのようで聞いて楽しんでいらっしゃるご様子。羨ましい限り以外何もありません。しかし、待てば海路の日和ありと申しましょうか、ひょんなことから手元にボロボロのJRCが転がり込んできました。
 見れば見るほどに、ほんとにぼろ〜ぼろ〜!


○とっても可愛そうなJRCが手に入りました。○

昭和44年頃の製品のようです。だれも欲しいなどとは・・・・??


 ボロボロということだけあって、さすがに凄いものです。これも海上を行き来する船舶に積まれていたようで、ビスもトランスケースもサビサビです。普通こういった機器は、塩害防止にしっかりとしたコーティングを施し、ビス類はステンレスを使うべきですが、JRCはどういう訳かクロームが使われていたり、シャーシもろくにコーティングされていないような感じです。
 潮風はこれでもかというくらい塗装をしてもじわりじわりと食い破るほどの破壊力を持っているようです。これは、もうひとつの船舶用受信機を磨いて分かったことです。それなのに、いい加減な処理をしてあるとしか思えてなりません。塩をなめているのかと思いました。なめるとしょっぱいです。


◇さすがに潮風です。凄いサビ!◇

ボコボコ歪んでるし、こんなの絶対に直らないよなぁ〜。と思う。


 前オーナーは、「絶対に再生は100パーセント不可能。部品取り用です。」と自信を持って太鼓判を押したものです。そう言ったのは、電気屋さんでありました。
 考えてみればあたりまえの事で、言い換えれば「直らないときの保証は100パーセントありませんよ。」と言い換えた方が分かり易いかもしれませんね。
 しかし、貰ってくるとしてもチェックするところは必ず確認するべきで、機構関係は特に要注意です。私のような素人では絶対に手を出すことが出来ないギアメカ、ギロチンメカなどの可動部です。メカニズムが破損していたら、もうお手上げです。辛うじて作動するようなら掃除とグリスアップで復活する可能性が高い訳です。
 それと、OMさんからの助言で「これは業務用機器、生半可なことで壊れるような代物ではないことは確かで、VFOはコリンズ社のもの。恐らく壊れてはいないでしょう」ということでした。・・・それじゃ、ちょっと手を入れてみようかな。と分解して諸々と遊ぶことにしました。
 後にOMさんが回路図等を手配してくれました。あるとなしでは大違いです。大変助かりました。この回路図を目で追うと目が回ります。複雑な回路図は色鉛筆で区分けした方が作業が楽になります。


◇なんとも痛々しい強烈なサビ◇

VFOはコリンズ社製、開封禁止だそうです。開けてみたい!


 デコボコは外して板金塗装で直るとしても、こんなの本当に聞こえるようになるのかな?とりあえず不足している球を差し込んで試験通電をしてみます。
 手にしたのはJRC TYPE NRD-1ELの筐体なしのものです。パネルはグレー系のクラッキング塗装みたいなハンマーネット塗装みたいな?かなり分厚い高級塗装をしてあります。
 しかし、これもかなりの腐食で補修は断念しました。潮風はメッキも食い破るパワーを持っていますので当然といえば当然のことです。


こんなに痛んでいる

つまみも錆びて外れません

ウンとかスンとかいえば儲けもの!一応この状態で点検を兼ね症状を見ます。
 電源をONするとランプは点いたのですがウンともスンとも・・・。SPに耳を近づければ軽くノイズが聞こえます。
 ということはAF段は無事。電圧を測ればそれなりに出ています。
 更にBFOをONすればノイズが発生。BFOもOKみたい?
 でも、RFゲインは錆びて回らない。ANTリレーの周りを見れば落雷を受けたのか抵抗が燃えた形跡?駄目だこりゃ!


◇それでもなんとか受信成功◇

いくつか部品は駄目のようですが、球の交換だけで・・・


 点検をしてみればVFOからは正常に出力があることを確認、BAND-SWを回せば少しずつではあるが、ノイズ音が変化することを確認できました。ウン、これは脈がありそうな?なんとなく、なんとなく・・・?
 安物のトランジスターラジオをあちらこちらに近づけて、TUNEノブを回せばトランジスターラジオがJRCの発信を拾い変化することが確認できました。これは、発信周波数の高調波を拾い受信するからです。出来るだけ小型で簡易的な6石スーパーあたりがフィルターもしっかりしていないので判り易いかもしれません。
 ということで、なんとか作動していることが確認できました。次に各段の出力信号をオシロで波形を追っていきます。これってなかなか便利な道具です。すると3adMixerの後、メカニカルフィルターの入口でとってもか細い感じです。ここの球を交換してみると、ザーッというノイズが聞こえ出しました。
 あっ、聞こえた!TUNEノブを回すと弱々しいながらも、沢山聞こえるではありませんか?やっぱり脈はあったようです。


◇やっぱりプロ機◇

こんな状態でも受信するとは!


 中身は、コリンズタイプの受信機です。0.09MHz〜1MHz、1MHzから2MHzと29ステップの切替がありあますので29バンドといえばいいのかな?よほど慣れないとアマチュア無線機としては使いにくいかもしれません。
 ラジオ番組を楽しむならせっかく付いているメカニカルフィルターには用事なしです。ところがCW-SSBを受信しようとすればこのフィルターとAGCは素晴らしい威力を発揮します。受信してみて感激でした。真空管でこれだけの威力を発揮するとは恐れ入りました。恐ろしいラジオであることには間違いがない。当時のアマチュア無線家が憧れたのも当然だと思います。
 また、この受信機は基本的に海上用ではなく陸上用に作られたものだとか?当時の事情は知りませんが、陸のものを海へ売り込んだのではないかと想像します。酷い話です。
 酷い目にあったJRCは、これから人里離れた山奥で余生を送る事となりました。めでたしめでたし・・・


<2006.12.05>


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